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日通総合研究所が独自に行ってきた調査・分析の研究レポートを公開しています。

ロジスティクスレポート No.22

ハラル認証と物流業者への影響

はじめに

ハラルとは、アラビア語で「許されたもの、合法である」という意味である。つまり、イスラム教徒(ムスリム)が使用することを許されたもの、を意味する。その反対の概念がハラムであり、代表的なものは豚とアルコールである。多くの場合、ハラルとはムスリムの「食」に関する宗教的な禁忌と理解されるが、化粧品やトイレタリー製品など、肌に直接触れる製品についてもハラルであるかどうかについて関心が高い。ハラル認証は、食肉処理方法、製造工程、レストランなど、ある特定の行為や拠点を対象としている。屠畜場や製造工程が認証を得ていれば、そこで加工された製品にはハラルマークが付与され、市場に供給される。日本では、ハラルロゴの付された製品を見かけることは少ないが、東南アジアのスーパーやコンビニエンスストアではメジャーである。

【図1】東南アジア諸国の主要ハラルロゴ
図1

制度上、ハラル認証の多くは加工工程や製造工程など、閉じられた空間でのハラル性を保証するものである。本来ならば、ハラルマークの付された製品は「Farm to Folk(農場から食卓まで)」がハラルであり、途中でアルコールや豚由来の物質などにより宗教的に汚染されていないはずなのだが、ハラルマークを付されて工場から出た後、輸送途中にどのような状況に置かれたか、というところまで認証はカバーしきれない。特に、現代の物流構造は機能が専門化しており、製造業者以外の者が物流に携わることが多い。様々なプレーヤーが関与する「サプライチェーン全体」のハラル性を客観的に認証する仕組みを作ることは難しい。そうした複雑なサプライチェーンを「輸送」「倉庫(保管・パッケージング)」「小売り」に機能分化し、それぞれのハラル認証を規格化したのがマレーシアである。

1.マレーシアにおける認証制度

ハラル認証は、ISOのように国際的に統一された規格・基準ではない。宗教団体や民間団体が独自に出しているものが多く、宗教的な解釈の違いで内容に差があるなど、ばらつきが大きい。そのような状況にあって、マレーシアのハラル認証は国家規格として制定されているため、基準そのものの透明性や客観性が高いうえ、宗教的な厳格さも兼ね備えており、他のイスラム諸国からの信頼が厚い。そのため、特に非イスラム国の企業がハラルの要件を理解するには、格好の素材といえる。
マレーシアにおけるハラル認証規格は、屠畜場、食品の製造工程、レストランなどの施設に対して認証を付与するMS(Malaysia Standard)1500から始まり、イスラム教の観点を含んだマネジメントシステム(MS1900)、化粧品に対する認証(MS2200-Part1)など、徐々に範囲を広げてきた。そして、世界でも初めて、サプライチェーンのハラル性を認証する、MS2400シリーズを制定している。

【図2】マレーシアにおけるハラル規格とサプライチェーン
図2

 

マレーシアには、キューピー、大正製薬、ヤクルト、味の素、ポッカなど、多くの日系食品製造業が進出しているが、MS1500に基づくハラル認証を取得し、製品にハラルマークを付して販売している。ハラルマークを付けることは現時点で義務化されているわけではないが、国民の6割を占めるマレー系の消費者をターゲットとするならマーケティング戦略上、必要不可欠となっている。また、ハラル認証は、ムスリムが消費することを許された証明である側面と、GMPやHACCPをベースとした安全や品質基準の側面も持っており、ムスリム以外の消費者に対しても訴求力がある。食品や飲料など製品へのハラル認証は2004年くらいから本格的に運用が始まり、現在では市場に深く浸透している。一方、保管や輸送に関するハラル認証は2010年に規格が完成し、2014年から本格的に認証制度が運用され始めたばかりである。市場への浸透はこれからという段階である。

2.物流ハラル認証

MS1500は、製造工程=製品やレストランなど、限られた「場」でのハラル認証であるため、製品規格に近い性質を持っている。一方、MS2400は「Halalan-Toyyiban Assurance Pipeline Management System」という名称であり、直訳すれば「ハラルでありかつ健康・安全・衛生を保証する流通経路の管理体制」である。流通「経路」という、主に活動や機能に対する認証となるため、リスクマネジメントのフレームワークが用いられている。

【表1】MS2400の構成
表1
(出所:Malaysian Standard 2400)

 

物流ハラル認証では、輸送や保管における一連の業務フローにおいて、宗教的な汚染や健康・安全・品質を損なう恐れのあるリスクをコントロールできるように業務を設計し、それを日々運用し、問題が起これば対応する、といったPlan→Do→Seeの体制を確立することが要求されている。どういった方法で食肉処理を行うとか、汚染の可能性のある物質から何メートルの間隔をあける、といった定量的な規格ではないため、どこにリスクがあるのか、そのリスクは管理すべきかどうか、といった点について、事業者自らが判断する必要がある。仮に、マレーシア以外の国で物流事業者が「ハラル物流」を構築するとなれば、マレーシアの制度が有効なフレームワークとなることは間違いない。MS2400規格の中では典型的なコントロールポイント分析ワークシート例が示されている。(【表2】参照)

【表2】Hallalan-Toyyibanコントロールポイント分析ワークシート例
表2
(出所:Malaysian Standard 2400)

 

物流事業者がハラル認証を受けるためには、輸送や保管といった、業務フローの文書化が必要になる。そして、業務プロセスごとに考えられるリスク、リスクの評価、リスクの管理方法、などを一つ一つ確認していくこととなる。 インフラ要件としては、設備をハラル専用にするとか、ハラル専用の保管場所を準備する、といった対応が必要になる。ただし、認証機関側も、物流事業の性質上全てをハラル専用にすることが現実的に難しいということは理解している。将来的にはハラル専用が望ましいものの、事業性との兼ね合いで可能な範囲を自分たちで判断し、リスクマネジメント体制を構築すればよい、というスタンスである。非ハラル製品との接触を避けるオペレーション体制の構築、施設設計がなされているか、万が一汚染された場合は宗教的な洗浄を施すなど、対応策がマニュアル化され周知されているか、などが認証審査のポイントとなってくる。
日系物流事業者では、日本通運、NYKロジスティクスの現地子会社であるTASCOがマレーシアで物流ハラル認証を受けている。日本通運は、輸送の認証であるMS2400-1、TASCOはMS2400-1に加え、倉庫の認証であるMS2400-2を取得している。両社とも、全ての車両や全ての倉庫でハラル対応しているわけでは無く、一部の車両、一部の倉庫をハラル専用としてリスクマネジメント体制を構築している。

3.日本におけるハラル認証

ハラル認証は、マレーシアなど海外に限ったものではなく、最近は日本でもトピックとなることが多い。その大きな背景には、ムスリム人口が多いのは、中東ではなくアジア・太平洋地域である、という事実がある。アジア各国の所得が向上したため、日本製の食品がアジア市場を目指す動きや、日本へのムスリム観光客の急増といった現象が起こり、ハラルに関する関心が高くなっている。日本国内にもいくつかのハラル認証機関があり、認証を獲得する企業も増えてきている。認証を取得しているのは、食品製造業やレストラン、ホテルなどが多いものの、物流企業が倉庫の認証を取得する事例がでてきている。

【表3】日本のハラル認証取得物流企業例
表3
(出所:各社ニュースリリース)
 

公表資料から判断すると、各社とも施設全体をハラルとしているわけではなく、倉庫の特定エリアをハラル専用として認証を受けているようである。日本において物流企業がハラル認証を受ける場合は、事業環境に対応したレベル感を見極めることが重要となろう。輸送を例にあげれば、マレーシア市場なら「車両一台」がハラル専用というレベル感が求められるが、日本市場では「専用容器」のレベル感でないと事業として採算が取れないだろう。そうなれば、専用容器を使用するオペレーションで、いかにリスクをコントロールできる体制を構築するのか、という方向を考えていくことが現実的な対応である。現時点で日本国内でのハラルに対応するために大掛かりな投資を行うのは時期尚早と言えよう。

4.まとめ

今後、ハラル認証が日本国内の物流という機能に対し、どこまで影響を与えてくるかは未知数である。国民の100%がムスリムの国であれば、国内に流通している物は全てハラルのはずなので、国内での流通過程にまでハラル性を求める動きは起こりにくい。一方、アジアの多くは、ムスリムも多いが、すべてがムスリムというわけではないため、国内での流通であっても、輸入であっても、ハラルへの関心が高い。もともと日本はムスリムが非常に少なく、ハラルへの関心は低かった。しかしながら、最近は、アジアへの日本食品輸出を増やそうという動きや、アジア諸国からの観光客を増加させようという動きがあり、その一つの結果としてハラルへの関心が高まりつつある。物流事業者としてハラルに対応すべきなのか、する必要はないのか、経営判断を迫られる日はそう遠くないかもしれない。

【図3】ハラルへの関心イメージ
図3

(担当:経営コンサルティング部 那智 久代)

那智が書いたNricブログ記事はこちら

発行|2015年7月29日
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