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ロジスティクスレポート No.18

“大規模かつ広域的な地震災害”に対応した「震災ロジスティクス」のあり方

このたびの東北地方太平洋沖地震により被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。また、今回の東日本大震災において、救命・救援、そして復旧に懸命な努力を続けられている方々に深く敬意を表する次第です。
弊社、株式会社日通総合研究所では、震災後、宮城県内に研究員を派遣し現地の物流状況の調査を行なっています。このような情報収集等に基づき、被災者の方々の救命・救援、生活再建や、地域経済の復旧・復興、我が国全体の防災に資するよう、震災時の物流のあり方の提案・提言を行なっていく所存です。
今後、被災地の現状とこれまでに生じた問題、今後の望まれる展開などを「震災ロジスティクス」としてまとめ、弊社ホームページ上で適宜レポートを発信いたします。

第4報~物流業における事業継続計画(BCP)策定のポイント~
はじめに

日通総研ロジスティクスレポートでは、これまで3回にわたり『“大規模かつ広域的な地震災害”に対応した「震災ロジスティクス」のあり方』として、東日本大震災の発生にともなう物流上の問題の解決について提言を行なってきた。それらの中で共通していることは、事前に計画を立てることの重要性である。
このような事前計画の中で今、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)が注目されている。すでに第3報(No.17)でも「国・自治体BCP」の必要性を指摘した。
BCPは国・自治体はもとより、企業においても、その存続にまでかかわるものとして、その策定が不可欠になってきている。
それではBCPとはどういうものなのか?そこで、「震災ロジスティクス」第4報となる本稿では、これまでの弊社の経験等も踏まえつつ、物流事業者、特に中小事業者を視野に入れたBCP策定の必要性について提言し、その策定上のポイントについて、その概略を示したい。

1.BCPとは

2004年の中越地震や2009年の豚由来の新型インフルエンザ(H1N1)以降、荷主から物流事業者に対して「会社が被災した際のBCPはあるか」「被災後の復旧所要時間を教えて欲しい」「過去に発生した事業停止状況と対策を報告して欲しい」「傭車・下請にBCPを策定させているか」などを確認する動きが増えていた。今回の震災では、この傾向が一層強まり、「燃料や傭車について、供給元を複数確保しているか」「主な事業所の災害に対する安全性はどうか」という問合せが多い。
さらに、「地震・津波の自然災害時や感染症のパンデミック時にも、『必ず物流サービスを供給する』という条項を契約に入れて欲しい」と要望する荷主もあると聞く。「そんな無体な」「災害・パンデミックは不可抗力だから仕方ない」と言っても、欧米では、不可抗力による免責を認めない契約も有効とされる可能性があるという(日経ビジネス誌2011年4月18日号)。
被災時に何もしないで手を拱いていては、仕事もなくなって倒産してしまう。被害を最小限にとどめる一方で、早期に事業の復旧・復興をしなければならない。そのようなイザというときに「事業を継続する」ために予め策定しておく計画がBCPである(図参照)。

図 BCPの概念図
図
出所:主要参考文献2

地震等の天災では、急激に物流サービスの供給力が落ち込むが、その復活も早く、V字型に回復する。一方、新型インフルエンザ等の感染症によるパンデミックは、従業員の感染により徐々に供給力が落ち込むが、2週間とも言われるパンデミック時は全く事業が停止してしまうことから、回復もゆっくりとL字型にならざるを得ない。
その供給力の落ち込みを、いかに少なくするかが、BCPのなかで大きな役割を占める「防災」「減災」である。例えば、10台のトラックがあれば、事前の防災・減災対策を取らなければ10台全部稼働できないが、適切な防災・減災対策を講じておけば3台は稼働可能というようなことである(3台=3割の供給力を、どの荷主に提供するか「荷主の選別」という悩ましい問題が生じるが、その点はいずれかの機会に説明したい)。図の「③許容限界以上のレベルで事業を継続させる」のが、防災・減災対策で、ピンクの矢印部分に相当する。
その後、いかに早く物流サービスの供給力を復旧させるかが、図の「②許容される期間内に操業度を復旧させる」であり、狭義の「BCP」対応の考え方である。例えば、被災当初は3台が稼働可能な状態から、「○日後には7台」「△日後には10台(100%)」のようにである。図の黄色の矢印部分に相当する。
トラック運送の場合は、道路さえ通じていれば、車両・運転手・燃料を揃えることによって、ともかくも稼働可能になる。一方、倉庫の場合は、被災した貨物の整理、施設・設備の復旧などに時間を要することになるため、トラック運送のように急速には回復しない。しかし、図の「(荷主が)許容する期間内に」回復できずに、「①目標と現状の復旧時間乖離」が大きいと、復旧の早い他社に荷主を奪われてしまう。そのために、先に指摘したように、荷主も物流事業者に対して、BCPの有無や災害への対応力を問うているのである。
弊社では、これまで、地方公共団体の防災計画(緊急支援物資の備蓄と配送)や、物流業のBCP策定、新型インフルエンザ対策ガイドライン作りのお手伝いをしてきた。
ここでは、紙面の制約もあり、それらの中から、物流業におけるBCP策定のポイントを示すことにする。  

2.リスクの洗い出し

最初に、自社を取り巻く全てのリスクを洗い出し、それぞれのリスクの大きさを「受容不可能な(自社では対応できない)リスク」「許容可能な(対応可能な)リスク」「無視できる(特段の対応策は不要な)リスク」等に評価・分類し、対応が可能な各リスクの対応策を事前に講じておく。
紙面の都合でリスクマネジメントは省略するが、自社だけでなく、物流業者もチェーンの重要な構成要素である「サプライチェーン・リスクマネジメント」の観点も必要である。

3.BCP策定のポイント

BCPの考え方は、各企業の現況の把握と被害想定を行ったうえで、①避難 ②発災報告 ③安否確認 ④被害把握(建物・車両) ⑤社内報告 ⑥社員招集 ⑦関係先連絡(顧客・行政・業界団体。都道府県トラック協会は指定地方公共機関=ライフラインとして地方自治体と災害時の協力協定等を締結) ⑧業務復旧…の順に個々の項目について、「誰が、いつ、どこで」と実行レベルで落とし込んでいくことである。
また、各企業では、①総務・経理対策(社員・家族対策、情報・通信対策、資金対策)、②顧客・行政・業界対策、③輸送・保管対策(現場の営業所)…などの役割分担や代行順位なども、平時から定めておく必要がある。

(1)事前の予防・被害緩和(減災)対策

各自治体では、その地域の想定される天災に対して、洪水範囲などのハザードマップを作成している。この最新版のハザードマップを活用して自社事業所の危険度を把握する(例えば、横浜市では東日本大震災を機に、過去の最大規模の津波を想定して、市内の浸水度を見直したところ、「横浜駅西口では5mの最大深のおそれがある」と、最近公表された)。その危険度から、必要であれば「倉庫などの耐震補強を行う」「市販の非常用発電機を備える」「つねにPCデータのバックアップを行う」等の対策が出てくる。
事務所・車庫・倉庫などの重要拠点の確保や、ボトルネックを事前に把握した被害軽減策も必要である。例えば、倉庫や車庫の脇に用水路などないだろうか。岐阜県南部の集中豪雨では用水路が鉄砲水で溢れて、10トン車が何台も冠水した。兵庫県西部の水害では、倉庫脇の通路の雑草刈りを怠ったばかりに、そこで堰き止められた水が倉庫に浸水して寄託貨物が被害を受けた例もある。逆に、瀬戸内の高潮災害では、台風前夜に倉庫入口に土嚢を積み上げたことが奏功して、浸水を防止できた例もある。

(2)避難・安否確認・救命活動

次に、地震警報や気象警報などで、災害の情報を的確・迅速に収集し、危険と判断したら速やかに従業員に避難指示を出す。発災したら、まず従業員・家族の安否確認を行う。また、直ちに救命活動を行うとともに、火災などの二次災害を防止する。
救命機材(ジャッキ・バールなど)や緊急物資(食料・水・毛布など)の備蓄も欠かせない。災害では最低3日分、パンデミックでは同2週間分の備蓄が必要とされている。ちなみに、東京都の市区町村では「(事業所税等の地方税を徴収しているにもかかわらず)事業者向けの備蓄品は準備していない」とされていることから、都内の企業は自ら備蓄しなければならない(備蓄については、主要参考文献5を参照)。
以上のような行動は、地域との連携も必要である。自社のことだけ考えて行動すると、「周辺の安全を省みない」「地域を無視している」と、企業イメージにマイナスとなりかねない。主要参考文献4では「水害の避難中に企業への支援車両を走らせて強い批判を受けたことを反省して教訓としている企業もある」と述べられている。
参考までに、運転手用「安否確認カード」の例を掲げる。

図 運転手用「安否確認カード」の例
図
(3)復旧対策

物流業の復旧対策としては、被災車両・施設の代替(例:傭車、レンタカーによる有償運送許可、再寄託など)、通信の確保(例:被災事業所への着信電話を最寄り事業所に自動転送したり、後述の携帯電話の充電など)ほか、さまざまな項目が考えられるが、紙面の都合で、「燃料確保」と「資金繰り」の2点だけ掲げておく。

①燃料確保
サプライチェーンを成立させる物流サービスには、トラック・フォークリフトの燃料が不可欠である。今回の震災でも、インタンクは大きな効果があったことは事実であるが、インタンクの設置には、市町村への危険物取扱所の建築申請と検査済証が要る。また、危険物取扱主任者の配置、法令に基づいた年1回の定期点検が必要である。もし、タンクから燃料が漏洩して土壌汚染を起こすと、土壌の入替えなど膨大な修復費用が掛かる恐れがあるので、十分な検討が必要である。
最低限、毎日車庫に戻る際に、給油所に寄って満タンにしておくことが必要である。つまり、毎朝満タン(これで少しでも、当日の走行可能距離が延びる)で出庫することである。燃料代の締切日の関係などから、残量が少なくなってから給油していると、万一の時に困ることになる。
また、普通免許保有者であれば、誰でも乗れる50ccの原付バイクを常備しておくことも有効である。今回の震災でも連絡や緊急品配送で活躍した。3~4リットルのガソリンで約100km走行可能なほか、バッテリーからシガーライターで接続すれば、携帯電話の充電にも使える。 今回の震災では、停電で基地局が次第にダウンして、携帯電話が使えなくなった。「高額な衛星電話を設備する」という今後の対策もあるが、携帯電話各社の基地局ダウン対策の進展に期待したい。

②資金繰り
中小企業の場合は、資金繰り対策も重要である。荷主が被災すれば売掛金の回収が滞りがちになるが、その一方で、燃料費などは「現金払い」が求められる。少なくとも、売上高2~3カ月分の手元資金は必要である。
請求書等の証憑書類やデータは、コピーやバックアップを取って、災害時でも請求処理ができるよう、別の拠点(経営者や経理担当者の自宅パソコン等でも可)で保管する。最近のクラウドを活用するのも一つの方法である。コンピュータシステムの保守・復旧対策も、大ユーザーやメーカー優先となるため、中小物流事業者にはなかなか来ないと考えた方が良い。
資金については、トラック協会・倉庫協会などは、地方公共団体等の支援策を熟知している。また、災害時にも国や地方公共団体・商工会議所などから情報収集している。会員になって日頃からそれらの情報を得ておくとともに、災害等で資金難に陥った場合は、相談してみることをお奨めする。

(4)柔軟なBCP

BCPもガチガチのものを作っては、役に立たない。
災害時における運転手の通勤にしても、「燃油不足」であれば、「マイカー相乗り」「マイクロバスでのピックアップ」策を考えるが、新型インフルエンザなどパンデミック時には、できるだけ感染しないよう「接触を減らす」ことが求められる。そのためには、「バス・電車等の公共交通機関を避ける」「マイカー・バイク・自転車通勤」対策を取らねばならない。このように、BCPも対象とする災害によって、柔軟に対策を講じる必要がある。

おわりに

重要なことは、BCPを策定しても、机の引出しやキャビネットの奥にしまい込んで(あるいは荷主に提出しただけで)、イザというときに行動できず、「計画倒れ」にならないことである。また、身につくまで繰り返し訓練して、日常業務としてのBCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)にすることである。
例えば、先ほどの「安否確認カード」で記載した「災害伝言ダイヤル171」でも、予め練習しておかないと、イザという時に使えない。同ダイヤルは、「毎月1日」などに「伝言板体験」ができるので、平時にリハーサルしておく。
経営者は、「もし、高速道路が3日間不通になったら、どうするか」「もし、裏の□□川が氾濫して倉庫が浸水したら、どうするか」などあらゆる場面を想定して、運行管理者・倉庫管理主任者などと「A案・B案・C案・・・」を考える「頭の体操」を繰り返す。その結果や、他の地域で起こった最新の災害とその教訓などを、BCPに織り込んで行く。それが、従業員・家族や事業を守ることにつながる。
地域の防災訓練などに積極的に参加することは、BCPの実効性を高めるとともに、従業員の防災意識を高めることにもなる。また、3-(2)項で述べた「地域との連携」にも有効である。
当ロジスティクスレポートでは、本号を含め4回にわたって「震災ロジスティクス」をテーマに提言してきた。提言を実際のBCP、そして行動に結びつけていくには、行政も企業も平時から全員による訓練が欠かせない。「平時でできないことは、有事には決してできない」ことを肝に銘ずるべきではなかろうか。

主要参考文献

  1. 内閣府「事業継続ガイドライン第1版 解説書」(2007年3月)
  2. 同「事業継続ガイドライン第2版」(2010年11月)
  3. 中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」(2006年2月)
  4. NPO法人事業継続推進機構・東京商工会議所
  5. 「東京版<中小企業BCPステップアップガイド>」(2010年12月)
  6. (社)日本物流団体連合会
  7. 「新型インフルエンザ対策ガイドライン最終マニュアル」(2009年12月)

(担当:経済研究部 長谷川雅行)

発行|2011年7月29日
株式会社 日通総合研究所 総務部 研究開発担当
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