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ロジスティクスレポート No.16

“大規模かつ広域的な地震災害”に対応した「震災ロジスティクス」のあり方

このたびの東北地方太平洋沖地震により被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。また、今回の東日本大震災において、救命・救援、そして復旧に懸命な努力を続けられている方々に深く敬意を表する次第です。
弊社、株式会社日通総合研究所では、震災後、宮城県内に研究員を派遣し現地の物流状況の調査を行なっています。このような情報収集等に基づき、被災者の方々の救命・救援、生活再建や、地域経済の復旧・復興、我が国全体の防災に資するよう、震災時の物流のあり方の提案・提言を行なっていく所存です。
今後、被災地の現状とこれまでに生じた問題、今後の望まれる展開などを「震災ロジスティクス」としてまとめ、弊社ホームページ上で適宜レポートを発信いたします。

第2報~被災地復興に向けた物流再構築へのロードマップ~
          
はじめに

平成23年5月17日、政府は「政策推進指針~日本の再生に向けて~」を閣議決定した。この指針は『東日本の復興を支え、震災前から直面していた課題に対応するため、日本の再生に向けた取組も再スタートしなければならない』との問題意識のもと、『本指針は、震災復興と並ぶ日本再生の方針を提示』している。
この指針の中で、当面の影響としてサプライチェーンの障害が挙げられており、ストックの毀損や電力制約とともに、生産活動や輸出の減少の要因とされている。そのため、「当面、短期、中長期の経済財政運営の基本方針」のなかで、サプライチェーンの復旧・再構築が震災からの早期立ち直りのための当面(緊急)の推進事項として位置づけられている。
このような指針を踏まえつつ、本稿では、サプライチェーンの障害の発生状況、今後のサプライチェーンのあるべき姿、そしてサプライチェーンを支え、被災地の経済復興を後押しする物流再構築に向けてのロードマップについて提言する。

1.産業の被災状況

今回の震災で被った工場等の損壊状況は、沿岸部と内陸部で大きく異なる。
沿岸部では、津波により甚大な被害を受けた工場等が多い。沿岸部の地場産業である水産加工業の他、臨港型の業種である石油(製油所)、鉄鋼、セメント、製紙等の大規模工場も被災した。これらの工場では、津波で生産機械が破壊されたり、構内が泥で覆われたり、あるいは岸壁や荷役設備が破壊され、製品・原材料の在庫も流失するなどの被害が発生した。また、火災も追い討ちをかけた。
他方、沿岸部に比べ、地震の揺れによる被害を受けた内陸部の工場等では、「建物・設備の損壊等は比較的少ない」といわれていた1)。そのため、「ラインの健全性の確認等、準備が整えば操業可能な企業等が多く、現在徐々に操業再開する企業等が現れている」2)とみられていた。
経済産業省では、平成23 年4月8日~4月15 日にかけて被災地における生産拠点の復旧状況及び見通し、震災を原因とする製品・部材等の供給制約による生産の停滞に関する状況を把握するため緊急調査を実施した3)。それによると、震災から約1ヶ月が経過した4月時点において、依然として36%の企業(製造業全体)が復旧できておらず、復旧見込みが「わからない」とする企業も7%あった。
だが、各社の被災した生産拠点は復旧したとしても、それだけでは工場等は稼動しない。操業再開のためには、生産拠点の復旧とともに、原材料・部品等の調達が必要となる。経済産業省の緊急調査では、「原材料、部品・部材の調達が滞っている原因」として、80%以上の企業(製造業)が「調達先が被災」と答え、さらに加工業種の企業の91%が「調達先の調達先が被災」と回答している。また、十分な調達量が確保できる時期については、加工業種の71%の企業が「10 月までに」と回答し、約3割の企業は「わからない」と回答している。
このように、工場の操業再開に向けて、工程の上流の被災が足かせになり、サプライチェーンの復旧の遅れがさらに川下側の生産停滞につながり、全国に波及していった構図がうかがえる。  

2.なぜ全国的な生産停滞に波及したのか?

東日本大震災による生産停滞は、被災地に留まらず日本全国さらには海外にまで波及することとなった。しかし、製造品出荷額や域内総生産等の相対的なウェイトがそれほど高くない地域の被災が、どうしてここまで影響を広げたのか。
その第一の要因として、東北地方の製造業は、地場資源を起源とする業種以外、ほとんどが関東をはじめとする他地域に生産拠点を構える企業の拠点分散(あるいは移転)による立地が主体となっていることを指摘することができよう。そのため、遠距離輸送を伴って広域に製品を供給する企業が多い。この供給が滞ることによって、東北地方から離れた地域の生産にも支障を及ぼし、さらにこの生産が停滞することによって全国・世界に連鎖的に生産停滞が広まっていった。
第二に、我が国経済の低成長が長く続くなか、中小企業の淘汰と大企業における「選択と集中」が進行した。この結果、我が国の産業構造は技術に秀でた、特定少数の企業・工場にキーとなる部品の生産が集中する傾向、もしくは差別化を達成した企業に製品仕様を依存する傾向が強まった。このような技術等により生み出された部品や素材は他に代替することが難しく、この供給途絶により幅広い業種の生産が停滞した。
第三には、JIT(ジャスト・イン・タイム)生産の進展により、生産構造の川上から川下まで、原料・部品・半製品などの在庫が極小化していたことが上げられる。このため、連続的な部品等の供給がなければ、生産はたちまち停滞することになる。

3.今後のサプライチェーンと物流のあるべき姿

今回のような大規模なサプライチェーンの途絶という事態を踏まえて、今後のサプライチェーンとそれを支える物流はどうあるべきであろうか。
まずは、震災等のリスク回避に向けて、工場等の生産拠点の分散配置や調達先の分散化を図る動きがこれまで以上に模索されることになろう。生産拠点や調達先の分散によって、在庫全体の積み増しや輸送コストの増大が予想され、いかにコスト上昇を抑えるかが重要な課題になる。そのため、分散した在庫の一元管理を可能とする可視化を推進するとともに、分散した拠点から適宜適正量を迅速に納入する集約輸送など、コスト上昇を抑える効率的な物流の実現が求められることになる。
一方、供給先から調達元まで、在庫の可視化を全方位的に推進することが求められる。在庫の可視化については、これまでも企業のロジスティクスとして取り組まれてきており、また、各企業が出荷した最終製品がユーザーに届けられるまでのサプライチェーンでも、その流通の各段階における在庫情報の共有化が図られてきているところである。
しかし、今回の震災で問題となったのは、完成品までの工程全体における調達面でのサプライチェーンである。供給後の川下側のサプライチェーンの可視化は進んでいたが、生産前の川上側の工程については、生産情報は伝達されていても在庫の可視化は進んでいなかった。この川上側の在庫の可視化を進めることにより、製品のみならず、部品・原材料を含めたサプライチェーン全体の在庫状況が双方向で把握することができ、震災などのリクスに備えた適正な在庫拠点の配置が可能となる。
ただし、これを実現するためには、(1)部品や原材料などが多岐に渡ること、(2)前工程をたどっていくと、一次から二次、三次、四次と多層で輻輳的なサプライチェーン構造が形成されていること、(3)川下側が二次・三次・四次と続く川上側にどこまでの情報開示を要求できるのかということ、などの難しさがある。しかし、完全な可視化とはならなくとも、少なくとも今回ボトルネックとなったような主要な部品・原材料、調達先が集中している部品・原材料については、工程の川上~川下間である程度の情報共有化を進めることは望ましく、少なくとも自社の調達網については、末端に至るまで把握しておくことが不可避となるであろう。
このように、サプライチェーン全体の革新が、低コストとリスク管理を両立させつつ、生産・在庫・輸送の変革をもたらす可能性がある。同時にこれらの実現のためには、情報通信網の堅持が必要であり、被災状況が長期間にわたって続く場合でも通信が途切れぬよう、普段から複数の通信手段の活用や災害に強い通信技術の導入を行っていくことが求められる。また、輸送については、単一モード・単一ルートのみの利用ではなく、モード・ルートを普段から複数活用し、通常時でも異常時に備えた体制づくりを行っておくことが求められる。

4.被災地復興に向けた物流再構築へのロードマップ

このようなサプライチェーンの構築と並行して、現在の被災状況からの生産拠点等の早期復旧がなされなければならない。沿岸部では津波対策をも踏まえた都市計画の見直しなどに時間を要する可能性が大きいが、当面、既存の生産拠点は復旧させる方向で行政も支援する必要がある。さもなければ、生産拠点の海外分散・シフトなどにより東北地方の産業空洞化が進行し、地域経済・雇用に深刻な後遺症を残しかねない。
さらに、生産拠点等の復旧は、サプライチェーンの新たな構築(=復興)に資する方向で取り組まれる必要があり、物流もその方向で再構築される必要がある。そこで、物流の再構築について、概ね3年以内を目途としたロードマップを提起する。

1)直近に行なうべき物流再構築

目 標:通常の経済活動への復旧に向けた物流の整備
実施内容:
(1)生産復旧のための物流拠点整備
沿岸部・内陸部を問わず、生産拠点の復旧が急がれる。その際、特に生産復旧のために必要な物流拠点については先行して整備することが望まれる。被災地では、多数の倉庫が甚大な被害を受けた。また、東北運輸局の調べでは、トラック事業者の建物被害は613 棟、車両被害は6,526 両にのぼる(平成23 年5 月16 日現在)。このような倉庫、物流施設、またトラックの被災により、物流が滞り、生産の復旧を遅らせることになりかねない。
(2)通常の商業活動への移行に向けた輸送システム構築
甚大な津波被害を受けた沿岸部でも、生活必需品等は公的な救援物資による供給から一般の商業活動による供給に戻りつつある。しかし、避難生活等により被災地の人口が減少していることも否めず、需要量が縮小している可能性がある。一方、被災地のトラック事業者も被災しており、地元の輸送力が逼迫している可能性もある。輸送需要減と輸送力の一時的不足というなかで、地域のトラック運送事業者が事業を維持し、確実な輸送を担っていくためには、商品の共同輸送・共同納入などの業者間連携による事業再編成を図っていくことも重要である。

2)1~2年以内に行なうべき物流再構築

目 標:新たなサプライチェーンの構築に向けての準備
実施内容:
(1)倉庫などの再整備
沿岸部を中心に倉庫が甚大な被災を受けた。倉庫は災害時の物資等の集散場所として機能する他、新たなサプライチェーンの構築に向けての拠点となる施設である。今後の地域の復興上重要な役割を果たす施設であり、公的な支援も含め早急な復旧が求められる。
なお、復旧にあたっては、従来型の保管重視の倉庫から、仕分けや流通加工のスペース、大型コンテナやウイング車の乗り入れなど、流通機能を重視した施設へと更新される必要があり、さらに、高度なサプライチェーン管理が可能となるように、情報通信基盤を整えた施設とすることも望まれる。
(2)製造業・卸売業などのBCPの見直し・策定
これまで各企業のサプライチェーンは川下方向に意識される傾向があり、それに伴い各企業のBCP(事業継続計画)も自社内あるいは自社製品の出荷に重きを置いて策定されているケースが多い。しかし、今回の震災を通じて調達面でのサプラチェーンのあり方が大きな課題として表面化したことから、今後の企業のBCP策定にあたっては調達面での対策を盛り込み、かつリダンダンシーの考え方を踏まえて有事に即応した業務体制を整えておくことが望まれる。

3)2~3年以内に行なうべき物流再構築

目 標:新たなサプライチェーンの稼動に向けて
実施内容:
(1)生産拠点・在庫拠点の分散配置
今回の大震災によりサプライチェーンの問題が注目されることとなり、生産拠点や在庫拠点の一極集中のリスクに対して見直しが行われ、その分散配置が検討されるものとみられる。このような我が国の生産を安定させるための拠点整備に対して、都市計画の弾力的な運用などにより公的な支援を行っていくことが望まれる。
(2)情報インフラなどの複線化・多重化
情報通信インフラについては、災害対策として複数の手段を並行的に利用することができるように多重的に機器を備え、かつ平時の業務で実用していることが望ましい。衛星通信など、地上の設備に依拠せずに済む通信手段など、荷主企業・物流事業者とも意識的に導入することが望まれる。
(3)多モード・多ルート活用による輸送のリダンダンシー(重複性・多重性)確保
今後の輸送体系の構築にあたっては、リスク分散のために単一モード・単一ルートに頼らず、多ルート・多モードでの輸送に普段から取り組む必要がある。しかし、東北地方では南北ルート中心に道路・鉄道の幹線が集中するなど、偏りがみられる。このため、今後の復興過程において、港湾や空港など物流拠点を結ぶように、地域産業の多ルート・多モード輸送化に資するインフラ整備を推進することが望まれる。

おわりに

東日本大震災は、原料・部品等が流れるサプライチェーンの重要性を如実に示すものとなった。我が国産業が新興国と競い合いながら発展していくためには、有事にも対応した強靱なサプライチェーンの構築が不可欠であり、サプライチェーンを支える物流も、その目標に向けて再構築する必要がある。

(担当:経済研究部)

1) 東北経済産業局「東日本大震災を受けての東北地域の産業の状況について」(平成23 年4月7日)
2) 同上
3) 経済産業省「東日本大震災後の産業実態緊急調査」(平成23 年4月26 日発表)

発行|2011年6月1日
株式会社 日通総合研究所 総務部 研究開発担当
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