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日通総合研究所が独自に行ってきた調査・分析の研究レポートを公開しています。

ロジスティクスレポート No.15

“大規模かつ広域的な地震災害”に対応した「震災ロジスティクス」のあり方

このたびの東北地方太平洋沖地震により被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。また、今回の東日本大震災において、救命・救援、そして復旧に懸命な努力を続けられている方々に深く敬意を表する次第です。
弊社、株式会社日通総合研究所では、震災後、宮城県内に研究員を派遣し現地の物流状況の調査を行なっています。このような情報収集等に基づき、被災者の方々の救命・救援、生活再建や、地域経済の復旧・復興、我が国全体の防災に資するよう、震災時の物流のあり方の提案・提言を行なっていく所存です。
今後、被災地の現状とこれまでに生じた問題、今後の望まれる展開などを「震災ロジスティクス」としてまとめ、弊社ホームページ上で適宜レポートを発信いたします。

第1報~情報途絶時における需要予測に基づくロジスティクス体制構築の必要性~
                (速報)
はじめに

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う東日本大震災は、3月末時点で1万人超の死者を数え、行方不明者を合わせると約2万7000人に上る大惨事となった。家屋の全壊は1万5000戸に迫り、一部損壊も含めると12万戸以上が被災、16都県で31万人が避難生活を強いられ、岩手・宮城・福島・茨城を中心に、避難所が多数設けられている。このようななか、東日本大震災の緊急対応において、「被災地・被災者まで物資が届かない」「物資の偏在が生じている」など、物流に絡む問題の発生が指摘されている。
本報ではまず、大規模かつ広域的な地震災害に対応した物流の初動期における緊急の救援物資輸送のあり方について提言する。

1.東日本大震災の特徴
  • 大規模かつ広域的な震災であった
  • 地震の揺れよりも津波により甚大な被災を受けた
  • 幹線ルートから離れた地域で甚大な被災を受けた
  • 大規模に通信が途絶した

阪神淡路大震災も新潟県中越大震災も、今回の東日本大震災と比較すると、被災地の地理的な広がりとしては、県内の特定の地域や都市を中心とした狭域な震災であったといえる。それに対して、東日本大震災では、北は青森県八戸市周辺から南は千葉県旭市周辺までの約500kmにわたる太平洋沿岸で、特に津波による被害が広域に及んだ。これは、兵庫県南部地震や新潟県中越地震が内陸地殻内の直下型地震であったのに対し、東北地方太平洋沖地震がプレート境界型(海溝型)地震で、複数海域が連動して発生した大規模な地震だったことによる。
しかも、今回の太平洋沿岸を中心とした津波による大規模被災地が、東北地方の最も重要な幹線道路である東北自動車道・国道4号線から離れた三陸海岸や福島県浜通りなどであったことも、救援・復旧活動等に影響を及ぼすひとつの特徴として指摘できよう。
さらに、防災計画の想定を大幅に上回る大規模津波は、地域の工場や様々な施設・インフラ・移動手段(自動車・船等)など、どれもこれもまったく機能できない程まで「根こそぎ」破壊し尽くした。それに伴い大規模な停電や通信途絶をもたらすことになった。  

2.大規模かつ広域的な震災がもたらした情報の途絶
  • 津波による市町村役場等の全損壊に伴う地域被災情報の発信の途絶
  • 電話線・電話局・中継局などの被災による固定電話・携帯電話の断絶
  • 停電による通信機器の停止
  • 人の流動を阻む交通網の寸断

これまでの阪神淡路大震災や新潟県中越大震災でも、通信の途絶は生じてはいた。ただし、固定電話が不通でも携帯電話が通話可能、あるいは通話が不可能でもメールやWebでの連絡が可能など、何らかの代替手段が存在していた。また、中山間地域における通信の途絶であっても、自衛隊などの救助活動に伴って、外部との情報のやりとりが可能になり、短期間のうちに通信機能が回復した場合がほとんどであった。
しかし、今回の震災では、通信途絶が大規模で、かつ広域に及び、しかも長期化した。地震・津波・火災が通信インフラである電話線・電話局などを破壊し、中継アンテナを倒壊させた。市町村役場などに設置していた防災無線や衛星通信機器、予備電源もすべて津波に流されるところもあり、市町村役場の全損壊によりそもそも地域被災情報の発信すらできなくなってしまったところも少なくない。「生き残った」通信機器や携帯電話中継アンテナなども長時間の停電により機能が低下・停止した。この通信途絶により被災地外へ情報を伝えることができなくなった。
さらに、津波で押し流された大量の瓦礫や建物、自動車、船などが道路を通行不能にさせた。通信の断絶に加えて、この交通の遮断によって、被災地内でも、正確な被災情報の集約が困難になった。

3.情報の途絶が救援物資の円滑な物流を阻害
  • 救援物資の適切な集約拠点の決定が困難になった
  • トラックの運行計画の策定が困難になった
  • 上記のことから、適切なロジスティクス体制の構築が遅れた

物流とは「モノの流動」であるが、「いつ、どこに、何を、どれほど」運ぶのかという基本的な情報がなければ、モノを円滑に流動させることはできない。物流の初動に「情報」の存在は不可欠である。
だが、今回の大震災においては、通信途絶・交通遮断により、救急救命に関する情報とともに、必要な救援物資の情報も正確に伝わらない状況がしばらく続いた。
被災地への救援物資の供給は、特に初動期には「最低限必要とされる物資を、十分な量、できる限り迅速に」行なうことが求められる。その実現のために、国内外からの救援物資の集約拠点を被災地にできるだけ近い安定した場所に設け、そこから被災地最前線に適宜輸送する供給体制=ロジスティクスを構築することが理想とされている。
今回も被災した各県の災害対策本部等には、高速道路等の被災にもかかわらず早くから救援物資が届けられた。しかし、大規模かつ広域にわたる通信途絶に伴い、被災地からの物資の要請が災害対策本部等に伝わらず、「被災の範囲と必要とされる物資の供給量」を把握することができなかった。この情報の不通により、適切な集約拠点の立地、規模などの決定が遅れてしまったと考えられる。そして、輸送の段になっても、効率的なトラック運行の計画を直ぐに作成できないこととなった。
自治体やトラック運送事業者・倉庫業者など関連する物流関係者が「次々と集まる物資を早く被災地に届けねば」と焦るなかで、しかも瓦礫による交通遮断や燃料供給不安等から綿密なトラック運行計画を作成したうえで、慎重に運転しなければならないという厳しい状況下でありながらも、情報の途絶は救援物資供給のロジスティクス体制の稼動を遅らせた。
被災地内では、被災者の所在が不明のまま、通信の回復を待たざるをえず、被害の全容が判明してくるにつれ、これまでにない大規模な供給体制の構築が急がれることとなった。

4.被災地需要予測に基づくロジスティクス体制構築の提案
  • 衛星写真や空撮による早期の被災地状況の把握
  • GISによる属性別被災者数などの予測
  • 被災の規模・時刻・気象天候を加味した救命上最低限必要な物資の需要量予測
  • 災害対策本部の判断による物資の緊急供給

以上のように、関係者の必死の努力にもかかわらず、今回の震災で初動期の緊急な救援物資の供給に時間を要した。それは、震災後、被災した自治体から物資の要請(需要)が、通信途絶により県の災害対策本部等に上がってこなかったことによる面が大きい。
そこで、今回の震災の経験から、大規模かつ広域にわたる通信途絶を伴う震災においては、被災地現地からの要請が顕在化する前に、緊急救援物資の需要を予見し、供給できるシステムを国の災害対策として構築しておくことが望ましいと考えられる。
そのシステムのイメージとしては、衛星写真や空中撮影から被災地の範囲を把握し、GIS(地理情報システム)や国土数値情報等から、被災規模・時刻なども考慮して被災地内での属性別(性別年齢別等)被災人口を予測したうえで、気象・天候なども勘案し、被災者が求める物資(特に救命上不可欠で早期に供給することが必要な水・食糧・毛布などが中心)の需要量をおおまかに予見する、というものである。
GISについては現在の我が国の各種データベースを基にすれば、現在の技術でもすぐに整備が可能と考えられ、すでに商圏分析・マーケティングなどの分野でソフトウェアとして商品化されている。このようなソフトウェアと災害時の写真データを照合させることにより、おおまかな需要量の予見は可能であろう。
このような需要の予見をもとに、救援物資を備蓄している被災地外の自治体・企業にピッキングリストを送付し、出荷を要請することにより、たとえ市町村の通信が途絶えていても早期の物資供給体制を動かし始めることができる。
上記のように、スピーディーに緊急救援物資の出荷要請を行った上で、災害前に県内各地に多数の集約拠点候補地を選定しておき、当該システムに登録、情報共有化が図られていれば、震災時に災害対策本部が物流事業者等と協力して適切な集約拠点をスムーズに選定することができ、被災地へのロジスティクス体制を早期に運用開始することができる。さらに、給油所状況やITSによる道路開通状況、空輸のためのヘリポート候補地・港湾の耐震バースなどの情報も当該システムと連動すれば、多様な輸送手段・ルートの確保により、迅速・確実に緊急救援物資を被災者に届けることができるであろう。
このようなシステムの利用により、被災地から被災状況と要請に関する情報が途絶しているとき、災害対策本部の判断によって緊急救援物資の的確な供給を行うことができ、より早く、確実に救命と被災者の安心を確保できることになる。

おわりに

被災地では、現在も依然として避難所などで厳しい生活を送る被災者が多く、当初の救命用の物資に加え多種多様な救援物資輸送も引き続き行われているが、今は既に緊急救援物資の供給段階から次の段階に移行している。今回は将来の緊急救援物資の輸送のロジスティクスを検討するために、これまでのところで概ね状況が把握できた初動期の当該物資輸送について、そのあり方を速報した。
救援物資のみならず、これからの復旧・復興に向けて物流に求められる役割も拡大していくものとみられる。次回のレポートでは復旧・復興に向けた物流のロードマップについて提言する予定である。

(担当:経済研究部)

発行|2011年4月7日
株式会社 日通総合研究所 総務部 研究開発担当
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